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5つの津波訴訟の公開討論会を開催へ 七十七銀行女川支店遺族が呼びかけ

呼びかけ人のひとり、七十七銀行女川支店被災者家族会の田村弘美さん

東日本大震災から5年を迎えるにあたり、宮城県内の5つの津波訴訟の原告の遺族や家族が、企業や組織の防災のあり方について議論する公開討論会を3月5日に仙台市内で開く。企業や学校、保育現場など、異なる施設管理下での津波犠牲者の原告たちが一堂に会して議論する会合は初めてとなる。

討論会を企画しているのは、七十七銀行女川支店で働く従業員を亡くした遺族と行方不明者家族でつくる家族会と、その訴訟弁護団。他に、石巻市立大川小学校、私立日和幼稚園(石巻市)、山元町立東保育所、常磐山元自動車学校(山元町)の管理下で津波の犠牲になった遺族らに呼びかけて、開催が決まった。

第1部では、七十七銀行女川支店の家族会がこれまでの5年間の歩みを振り返り、また、岩手県内の企業が震災時の対応について報告をする。第2部では、企業や組織は従業員等の関係者の命をどのように守るべきなのかを、各原告の遺族同士が登壇し、議論する予定だ。

討論会の呼びかけ人のひとりである田村弘美さんは、女川支店で勤務中だった長男健太さん(当時25歳)を亡くした。同支店の行員は、発災後に支店長の指示で支店ビルの屋上に避難したが、巨大津波に襲われて4人が死亡、支店長を含む8名が行方不明となった。

企業防災のあり方問い続ける七十七銀行の従業員遺族

田村さんら3遺族・家族が原告となり、銀行側に安全配慮義務違反があったとして計約2億3千万円の損害賠償を求めた裁判は、現在最高裁で争われている。

遺族側は、津波の浸水予測域にありながら実効性のある避難訓練を行っていなかった同支店の防災体制や、支店から徒歩で約3分の場所にある町の指定避難場所の高台ではなく、より低く津波避難ビルでない支店屋上に避難させた対応などを問題視した。一方銀行側は、「ビルを飲み込むほどの巨大津波は予見できなかった」と主張した。

仙台地裁(斉木教朗裁判長)は2014年2月の判決で支店ビルの適格性を認めたうえ、屋上への避難を「経済合理性があった」と認めて、遺族側の訴えを退けた。仙台高裁(中山顕裕裁判長)も、2015年4月の判決で一審を支持。遺族側は翌5月に上告した。

銀行側の不十分な防災体制を問題としない判決が出されたことに、遺族は危機感を募らせている。田村さんらは討論会で、経済合理性や事業継続性が優先され、防災計画が軽視される傾向にある企業防災のあり方について、議論を深めたいとしている。

遺族からの接触拒む日和幼稚園

送迎中の園バスが、高台から海辺に降りて津波と火災に巻き込まれ、5人の園児と職員1人が犠牲になった石巻市の私立日和幼稚園(休園中)の事故。園側が安全配慮を怠っていたために事故が起きたとして、4人の園児の遺族が2011年8月、計約2億6700万円の損害賠償を求めて運営母体と当時の園長を相手に提訴した。

裁判では、保育士らが防災マニュアルが置いてある場所や内容を知らないなど、ずさんな管理体制も明らかになった。裁判は2014年12月に、園側が和解金計6000万円を支払うことで、仙台高裁(中西茂裁判長)での和解が成立している。

和解条項には、「(園側が)一審判決で認められた法的責任を認めるともに、被災園児らと家族に対し、心から謝罪する」などの文言も盛り込まれた。しかし、遺族によれば、和解成立から1年以上が経つ今も園側からの直接的な謝罪はなく、園側は遺族が送った手紙を受け取り拒否で返送するなど、接触すら拒み続けている。

事故で長女愛梨ちゃん(当時6歳)を亡くした佐藤美香さんは、「裁判が終わっても、遺族がこうして二重三重に苦しめられ続ける状態はなんとかならないかと思っている」と、苦悩を打ち明ける。討論会では、和解の枠組みの課題のほか、事故後の園側の対応の問題、保育現場の防災や安全管理の体制についても共有したいという。

1遺族が上告中の東保育所

保育管理下での津波被災は、県南でも2件起きている。そのうちのひとつ、山元町にある町立東保育所では、3人の園児が犠牲になった。

地震発生直後、園は町役場の指示で、1時間ほど園庭に園児らを待機させた。津波を目撃した保育士の言葉をきっかけに、園長の指示で居合わせた保護者の複数台の車に乗り込み逃げたが、最後尾の車が津波にのまれた。

2人の園児の遺族が2011年11月、「町は防災無線やラジオで適切な情報収集をせず、園庭に待機し続けるという誤った指示をした」として、町に計8800万円の損害賠償を求めて提訴。仙台地裁(山田真紀裁判長)は2014年3月の判決で、情報収集の適切性については「疑問が残る」としつつも、保育所まで到達する津波は「予見できなかった」と、請求を棄却した。仙台高裁(中西茂裁判長)では、町が和解金300万円を支払うことで1遺族が和解に応じたものの、一審判決を支持した判決を不服として、1遺族が上告した。

公開討論会には、裁判を続ける遺族が参加する。

役員の責任認定求めて控訴した教習所遺族

同じく山元町の常磐山元自動車学校では、亡くなった教習生25人の全遺族とアルバイト従業員1人の遺族が、適切な避難指示が行われなかったとしてそれぞれ学校側を相手取り裁判を続けている。

仙台地裁(高宮健二裁判長)は2014年3月、遺族側の訴えを認めて請求のほぼ満額となる計約19億1千万円の損害賠償を命じる判決を出した。しかし、被告の自動車学校側だけでなく、教習生側の一部の遺族と従業員側の遺族は、役員個人の責任が認められなかったことを不服として控訴。仙台高裁(中西茂裁判長)での審理はほぼ終了し、現在和解の可能性を検討する段階となっている。

討論会には、従業員側の原告が参加し、企業の従業員も含めた安全管理のあり方を訴える予定だ。

大川小裁判は4月に証人尋問

約50分間の校庭待機後に津波に襲われて74人の児童と10人の教職員が亡くなった、石巻市の市立大川小学校。児童19家族が、学校の安全配慮義務違反を訴え市を相手取った裁判は、仙台地裁(高宮健二裁判長)で佳境を迎えている。校庭の目撃者や関係者の証人尋問が4月に決まったところだ。

遺族側が、事故後に学校や教育委員会側から適切な対応が受けられなかったことを問題としているのもこの裁判の特徴だ。文部科学省も大川小の事故をきっかけに、学校事故後の調査や遺族への対応に問題が多いことを認め、調査と対応の指針作りに乗り出している。

組織防災の現場に生の声をどう伝えていくか

田村弘美さんは、「東日本大震災では組織管理下で大切な命が失われた。裁判をして何がわかったのか。次にどうすれば防げるのか。教訓として引き継ぐには組織はどうあるべきか。家族として思うことをそれぞれに話す場にしたい」と話す。

津波犠牲者の遺族が起こした裁判で、原告たちに共通するのは、「適切な対応をすれば助かる命だった」という思いだ。裁判やこれまでの活動を通じて得られた知識や情報を、企業や学校などの安全管理の現場に当事者の生の声としてどう伝えるのか。遺族たちが、自ら探り出す活動が始まる。

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5つの津波訴訟の公開討論会を開催へ 七十七銀行女川支店遺族が呼びかけ
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